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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1515号 判決

控訴人 米田徳重 外一名

被控訴人 鵜飼信 外二名

主文

原判決中被控訴人ら敗訴の部分を除きその余を次のように変更する。

被控訴人鵜飼信、同井上春野、控訴人米田徳重、同川村忠三郎、訴外亡高原喜三(被控訴人高原弥三郎の先代)間において昭和十年一月締結された浴場に関する組合は解散していることを確認する。

控訴人らは被控訴人らに対し、被控訴人らが各自控訴人米田徳重に対し金六万六千八百八十七円九十八銭を支払うと引換えに東京都台東区浅草向柳原町一丁目一一番地の二宅地六六坪二合九勺のうち別紙図面(ハ)(ニ)(ホ)の部分を被控訴人らの共有として分割する登記手続をなすべし。

被控訴人らその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人らの各負担とする。

事実

控訴人ら代理人は原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す、被控訴人らの請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とするとの判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は次のとおり附加するほか原判決の事実らんに記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。

控訴人ら代理人は、(一)本件組合はまた解散していない、すなわち組合の目的たる事業はまた成功していないのである、被控訴人鵜飼及び控訴人川村が現に浴場営業を営んでいないということは、たんに同人らには組合加入の実益がないというだけである、また従前の本件土地賃借人真々田が本件土地に浴場を新設しないというだけでは目的は成功しない(真々田のことはむしろ組合出発前に解決している)。本件組合の目的たる事業は他の何人にも、本件土地においてはもとより、組合員各自の浴場を結ぶ線内の五角形の地域内のどの地点においても、浴場を開設せしめないというのがそれであるから、現に他の何人もここに浴場を新設する気配がないとはいい得ない以上、目的たる事業はまた成功したとはいえないのである、(二)仮りに組合が解散したとしても本件にはまだ清算すべき事務がある、すなわち控訴人米田は本件土地について固定資産税を立替え支払つており、これは組合員各自に分担清算されるべきものである、また従前の土地賃借人真々田が控訴人米田に対して支払つた賃料は組合員各自に分割支払われるべきものであり、右真々田から控訴人米田が右賃借権を譲受けた後は組合は控訴人米田に対し地代債権を有するはずである、また控訴人米田は右賃借権譲受の対価として金二十九万円を真々田に支払つているが、これによつて組合の事業目的に協力したことになるのに、右譲渡については組合員の同意がないから、土地が分割されれば控訴人米田はそれだけ損失を受け、組合は少くとも二十九万円の不当利得をすることになる、これについても清算しなければならない、しからばこれらの清算前である今日においては被控訴人らはまだ組合財産の分割を請求し得べきではない、(三)仮りに分割を請求し得るとしてもそれは民法第二五八条の規定によるべきである、仮りに同条によらないとしても本件組合の業務執行は規約第六条により全員一致の協議によつてすることとなつているから清算の場合においても全員一致を要し、多数決によることを得ないと述べた。

立証として控訴人ら代理人は乙第一号証、同第二ないし第十号証の各一、二、同第十一、十二号証を提出し、当審における控訴人米田徳重本人尋問の結果を援用し、被控訴人ら代理人は当審における被控訴人鵜飼信本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めると述べた。

理由

東京都台東区浅草向柳原町一丁目一一番地の二宅地六六坪二合九勺(本件土地)がもと訴外堀秀孝の所有に属し、訴外真々田薫が同人からこれを普通建物所有の目的で賃借していたが、右真々田は昭和六年右土地上に浴場の新設を企て、当局にその営業許可を申請したこと、そこで当時本件土地の周辺において浴場を所有し経営していた被控訴人鵜飼の先代鵜飼コト、被控訴人高原の先代高原喜三、被控訴人井上の前主相生無尽株式会社、控訴人米田、同川村の五名は右浴場の新設を阻止するため、同年九月共同の出資をもつて本件土地をその所有者堀から買い取りその所有権を取得し、真々田の浴場新設を阻止する目的を達したこと、そして右買受当時本件土地は右五名の合意により訴外高橋与三郎の所有名義にしてあつたが、昭和十年一月これを当時の前記各浴場の所有者であつた被控訴人鵜飼、同高原の先代喜三、同井上、控訴人米田、同川村の五名の共有名義に変更するとともに、右五名間において組合(本件組合)を結成し、かつ本件土地をこれに出資したこと、右組合規約の主なるものは、(イ)持分及び損益分配の割合は各組合員平等とする(第二条及び第五条(ロ)組合の業務執行は組合員全員一致の協議によつてこれをする(第六条)(ハ)組合員が本件組合の持分を他に譲渡しようとするときは他の組合員全員の承諾及びその譲受人を本件組合に加入させることを条件としてこれをすることを要する(第八条)(ニ)組合員が死亡したときはその相続人が前主の地位を承継して組合員となる(第一三条)等であつたこと、昭和二十年三月本件土地上にあつた訴外真々田所有の家屋は戦災により焼失したこと、昭和二十五年四月二十六日組合員である高原喜三が死亡し相続人である被控訴人高原がその地位を承継して組合員となつたこと、被控訴人らが昭和二十七年九月控訴人らを相手方として台東簡易裁判所に本件土地の分割の調停申立をし右事件は同庁昭和二十七年(ノ)第一四四号として係属したが控訴人らがこれに応じなかつたこと、本件土地の形状、坪数が別紙図面のとおりであることはいずれも当事者間に争ない。

控訴人らは、被控訴人らはすでに組合財産たる本件土地に対する各持分を組合規約に違反して訴外吉村欣也に売却処分したと主張するが、これを認めるべきなんらの証拠はないから、右主張は理由がない。

また控訴人らは、被控訴人鵜飼は昭和二十七年八月組合財産たる本件土地に対する持分を控訴人米田に売却譲渡したと主張するが、原審における被控訴人鵜飼信控訴人川村忠三郎、原審及び当審における控訴人米田徳重の各供述をあわせれば昭和二十七年八月ごろ被控訴人鵜飼及び控訴人米田の間で被控訴人鵜飼の右持分の売却について交渉がすすめられたことは認め得るが、右売買契約が成立するにいたつたことまでは認められず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、右主張も採用できない。

被控訴人らは本件組合はすでに解散しているとしてその確認を求めるので、順次その主張について検討する。

まず被控訴人らは、本件組合契約は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という)第三条第二条第五項(当時同条第三項)に当るから、同法第三条第一〇二条により同法施行の日である昭和二十二年七月二十日その効力を失い、従つて本件組合はこれにより同日限り解散したと主張する。本件組合の目的は、成立に争ない甲第二号証によれば組合規約の第三条において「本組合ハ共同シテ右土地ヲ使用収益シ、機ヲ見テ該地上ニ浴場ヲ新設スルコトヲ以テ目的トス」と定められていること明らかであり、これと原審及び当審における控訴人米田徳重被控訴人鵜飼信各本人尋問の結果に前記当事者間に争ない事実をあわせれば、はじめ本件土地上に浴場を建設して営業しようとした訴外真々田薫の意図は、控訴人被控訴人ら(当時はその先代又は前主を含む)五名の周辺浴場所有者が本件土地を取得したことによりいちおう阻止し得たが、右真々田以外の者が右周辺の五ケ所の浴場を結ぶ線内のいわゆる五角形の土地のいずれかに浴場を新設するときは自分らの営業に影響を受くべきことは同様であるので、もし第三者の浴場新設の動きが見えたときは機先を制して本件土地上に組合において浴場を新設するよう運動し、既設の浴場から一定距離をへだてたところでないと新規浴場の開設が許可されないという実情を利用することにより、結局において第三者が右地区内において浴場営業をすることを妨害しようとするのが本件組合の目的であり、その目的達成のために引きつづき本件土地の所有を必要としたものであつて、前記規約上の目的に関する表現はかかる趣旨のものであることを認めることができる。してみると本件組合は浴場業者である組合員五名が互いに結合して右地区内に新らしい浴場業者の出現することを阻止し、その者の事業活動を全く排除しようとするものであることは明らかである。しかし右五名の組合員の各浴場を結ぶいわゆる五角形内の地域が浴場営業の上でとくに他から区別されるべき一定の地域をなしているものと解すべき根拠は本件には見られないのみでなく、かえつて右五名の浴場業者は右各自のほかその外辺の他の浴場業者と競争関係に立ち、右地域を含めたより広い地域にわたつて連鎖的な競争圏が形成されるものであることは見易いところというべきである。従つてまたこのより広い競争圏からみれば本件地区内での競争制限は全体の上に与える影響としては軽微であると認められる。このような状況の下においてたんに前記五角形内の新規営業者を排除するための組合の結成は、独占禁止法第二条第五項(改正前は第三項)にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものとは解し得ないといわなければならない。この点の被控訴人らの主張は理由がない。

次に被控訴人らは本件組合はその目的たる事業の成功により解散したと主張する。組合の目的たる事業は前記のとおり本件土地を含む前記五角形内の地域に第三者の浴場新設を阻止することにあり、それにはかくべつ一定の期間の限定あるものではないから、組合結成以来前記真々田をはじめなんびともこの地域に浴場を新設することなく今日にいたつているというだけでは、まだ組合の目的たる事業が成功しおわつたものとはいうことができない。原審及び当審における被控訴人鵜飼信、原審における控訴人川村忠三郎各本人尋問の結果によれば、被控訴人鵜飼、控訴人川村の両名は昭和二十年三月その所有の浴場を戦災により焼失して以来浴場営業を廃して今日にいたつていることは明らかであるが、他の三名はなお従来どおり浴場営業を続けているのであるから、右鵜飼川村の廃業によつて当然前記第三者の新規開業を排除するという目的事業が成功したとは認めることはできない。被控訴人らは本件土地又はその附近において第三者が浴場新設を企てるような懸念は全くないと主張するが、これを認めるべき的確な証拠はないのみでなく、むしろ本件土地が他人の手中におちれば、本件土地又はその附近に第三者が浴場を新設するおそれはないとはいい得ないものと認むべきである。被控訴人ら主張の前記真々田がその借地権を組合に返還したとの点についてはその事実は後記のとおりであり、仮りに真々田が借地権を主張しなくなつたとしても、これが本件組合の目的事業の成功というべきものでないことは前同様である。これを要するに本件組合がその目的たる事業の成功によりすでに解散したとの被控訴人らの主張は採用できない。

さらに被控訴人らは本件組合はやむことを得ない事由があつたので被控訴人らにおいて昭和二十七年九月控訴人らに対し解散を請求したから、これによつて解散したと主張する。よつて按ずるに成立に争ない甲第三号証の記載、原審における証人松島友吉の証言、被控訴人高原弥三郎、控訴人川村忠三郎各本人尋問の結果、原審及び当審における被控訴人鵜飼信、控訴人米田徳重各本人尋問の結果、前記認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨をあわせれば次の事実を認めることができる。すなわち本件土地上には従前訴外真々田薫において借地権(賃貸権)にもとづき所有する木造建物があつたが、右建物は昭和二十年三月戦災により焼失し、そのあとはそのまま空地となつていたところ、昭和二十五年五月ごろ控訴人米田は自ら他の組合員にはかることなく、ひそかに真々田と交渉して同人の借地権を金二十九万円で買い受けた。その後昭和二十六年九月ごろになつてこのことが被控訴人ら他の組合員に知れ、被控訴人らは控訴人米田に対しその不当をなじり、右借地権は組合員五人が協議の上組合員全員のために買い受けるべきものである旨主張し、しばしば善処方を要求したが、控訴人米田は借地権は自分が個人として買い受けたもので、欲しければ時価で譲つてやるから坪二万円宛払えなどと答えて話はまとまらず、結局これをきつかけとして被控訴人らと控訴人ら、とくに控訴人米田との間が円満を欠くにいたつた。また被控訴人鵜飼と控訴人川村は前記のように戦災で浴場を失つてからは再び同所で同じ営業を営む意思がなく、被控訴人鵜飼は昭和二十七年八月ごろ同人の組合持分を控訴人米田に売却譲渡して組合から脱退しようとしたが、前記組合規約上他の組合員全員の承諾を要するのに被控訴人高原、同井上らはむしろ組合は解散すべきものとしてこれを承諾しないので、被控訴人鵜飼も持分譲渡をあきらめ、売買は成立するにいたらなかつた。一方、控訴人川村は控訴人米田に対し、その持分を譲渡することとし(その後その代金を十万円と定め内金七万円は支払を受けた)、他の組合員の承諾はないまま、組合に対する積極的関心を失い、もつぱら控訴人米田にまかせ、もしくはこれに追随する態度をとつている。このような事情で本来組合員の全員一致の協議でなされるべき組合業務の運営はとうてい今後円満になされることが期待できず、被控訴人らは解散を希望するにいたり、ついに昭和二十七年九月控訴人らを相手方として台東簡易裁判所に、組合解散を承認の上清算並びに残余財産分割をなすべき旨の調停を申立てたが、右調停は控訴人らの反対のため成立するにいたらなかつたという次第である。以上の事実によつて考えれば被控訴人らが本件組合の解散を請求するについてはやむを得ない事由があつたものと認むべきであり、右調停の申立書(甲第三号証)の副本は反対の事情のない本件では相手方たる控訴人らに送達されたものと認めるべきであるから、被控訴人らはこれによつて控訴人らに対し組合解散の請求をなしたものというべきである。しからば本件組合はすでに解散したことは明らかであり、控訴人らがこれを争うこと弁論の全趣旨に徴して自明の本件において、これが確認を求める被控訴人らの請求は理由がある。

次に被控訴人らは本件組合財産たる本件土地の分割による登記手続を請求する(但し被控訴人らの、組合がすでに解散し清算の段階に進んだ以上、組合財産分割禁止の制限は排除される結果、組合財産たる土地の共有者としてその共有分割を求め得るものとして、これを求める部分は、原判決において棄却せられ、これについては被控訴人らから控訴又は附帯控訴による不服申立がなされないから、当審においてはこの点の判断はしない)。

本件組合が解散したことは前段認定のとおりであるから、これにより組合は当然清算に入るものであるところ、本件において特に清算人が選任された事跡は認めがたいから、控訴人ら被控訴人ら組合員五名が当然清算人となつたものというべく、かつその清算事務は清算人の過半数をもつて決するものと解すべきである(民法第六八五条、第六八六条、第六七〇条)。控訴人らは本件組合の業務執行については規約上組合員全員一致をもつてすべき旨の定めがあるから清算の場合も同様である旨主張するが、組合の存続中に組合業務の執行につき全員一致の定めがあるからといつて、清算事務についてまでこれを求めるのは相当でない。何となればすでに組合は解散し、清算事務の急速な処理がのぞまれる段階においては、組合員各自の利害関係はむしろ対立するのが常であり、この場合まで全員一致を要するとすれば、決議は容易に得られがたいこととなり、ついには清算は不可能におちいるおそれなしとしないからである。この故に組合契約において特に清算の場合についての定めがあればかくべつ、しからざる限り結局民法の定めるところに従うものといわなければならない。しかして組合における清算事務は、現務の結了、債権の取立、債務の弁済、並びに残余財産の引渡であり(民法第六八八条第一項第七八条)、残余財産は各組合員の出資の価額に応じてこれを分割すべきものであつて(同第六八八条第二項)これらの清算事務の状況特に組合債務の状態いかんによつては、組合に属する個々の財産ははたして残余財産として組合員に分配されることとなるかどうかは明らかでないといわなければならない。この点につき被控訴人らは、本件組合は第三者に対してなんらの債権債務を有せず又結了すべき現務もなく、本件土地の分割だけが唯一の清算事務として残されたものであるから、その清算の内容としてその現物による分割を求めると主張し、控訴人らは、その主張のような税金立替金その他の債権債務関係があつて、本件土地はまだ残余財産として確定するにいたらず、従つて今の段階でこれが分割は求め得ないものであると主張する。よつてまず本件組合には本件土地の分割以外に清算さるべき清算事務があるかどうかについて検討する。

成立に争ない乙第一ないし第十二号証の記載に当審における控訴人米田徳重本人尋問の結果をあわせれば、控訴人米田は昭和十九年度及び昭和二十二年度から昭和二十九年度まで本件土地についての地租及び附加税(昭和二十四年度まで)並びに固定資産税(昭和二十五年度以後)合計四万四千四百三十九円九十銭を組合のため立替え支払つたことが明らかであり、右金員はまだ組合から控訴人米田に対し弁済がなく、組合は同控訴人に対し現に同額の債務を負担することは本件口頭弁論の全趣旨から明らかである。税金の立替については右金額以上にはこれを認めるべき的確な証拠がない。次に本件土地についてはかねてから借地人真々田において組合に対し賃料を支払い、控訴人米田がこれを受領した上当初の数年は右賃料から租税等必要経費を差引いたものを各組合員に分配したが、その後はそのことがないまま今日にいたつていることは原審及び当審における被控訴人鵜飼の供述によつて明らかであるが、仮りになお組合において真々田に請求し得べき賃料債権があり、もしくは控訴人米田がすでに真々田から取り立てながら被控訴人らに分配していない賃料収入がなにほどかあるとしても、被控訴人らがこれを請求していない本件では、これは本件土地そのものが残余財産なりや否やをきめることには関係がないこと明らかである。また控訴人らは控訴人米田は真々田の借地権に関し金二十九万円を出捐し、組合に対し同額の不当利得債権を有し、これまた清算さるべきものと主張する。控訴人米田が真々田に対しその借地権譲受のため金二十九万円を支出したことは前認定のとおりであるが、同控訴人はこれは個人として真々田の借地権を譲受けたものと主張していること前記のとおりであつて、これについては組合、従つて他の組合員の承諾を得ていないことはその自認するところであるから、その主張によつても控訴人米田は組合に対しては右借地権の取得を対抗し得ないわけである。従つて真々田においてなお右借地権を主張する場合はかくべつ、然らざる限り組合は控訴人米田の出捐によつてその借地権の負担を免れたことになる筋合である。しかしのみならず原審における証人松島友吉の証言、原審及び当審における控訴人鵜飼本人尋問の結果によれば右借地権譲受の交渉にあたり控訴人米田は自己個人のためにする旨を明らかにせずあたかも組合のための組合に代つて真々田と取引するかのようにふるまい、真々田も組合に対し借地権を譲渡するものと信じてこれをしたことがうかがわれ、右各証拠により認むべき従来真々田は組合に対する土地の賃料はもつぱら控訴人米田に支払つて来たことや、借地権譲渡代金の交渉において控訴人米田は真々田の四十万円との主張に対し二十九万円でなければ組合員が承知しないと申向けたことなどからみて、真々田がしかく信ずるのは相当であると認められる。そうすると右借地権は組合のために取得の効力を生じたものというべく、しかもその取得と同時に賃貸人と賃借人との地位が同一主体に帰着したこととなり、借地権は混同によつて消滅したものと解すべきであつて、この点から考えても組合は控訴人米田の出捐によつて本件土地上の借地権の負担を免れるにいたつたものというべきである。そして右借地権の価額は少くとも控訴人米田の出捐した金二十九万円を下らないものとみるべきであり、その消滅により土地の価額は少くともそれだけ増加したものというべく、結局において組合は控訴人米田の損失において金二十九万円の不当利得をしたこととなる。これが清算さるべきものであることは明らかである。以上のほか他になんらか本件においてなさるべき清算事務の存することはこれを認めるべき的確な証拠がない。してみると本件組合は組合債権者としての控訴人米田に対し前記税金立替及び不当利得の合計金三十三万四千四百三十九円九十銭の債務を負担するのであり、積極財産としては本件土地以外にはない(真々田に対する賃料債権が仮りにあるとしても被控訴人らがこれを求めない以上関係ないとすべきこと前記のとおりである)から、結局本件土地は控訴人米田に対する前記債務を負担するものといわなければならない。従つてこれを換価してその売得金中から右債務を支払い、その残額を各組合員に分配するのが通常の清算方法であろうけれども、控訴人米田は会社債権者であるとともに組合員でもあるから、組合の同人に対する債務を各組合員が平等に分割負担し、米田以外の各自がこれを米田に支払つた上、本件土地を組合員各自に現物分割することも許されるというべく、そのいずれによるべきかは一に組合清算の方法として決すべきものである。しかし組合員各自が組合債務を分担することなく、もしくはその負担部分を現実に支払うことなく、たんなる債務として存続させるだけで直ちに本件土地を残余財産として分割を求めることは組合債権者としての控訴人米田の地位を不当に危うくするものであつて、清算の方法としても原則として許されないというべきである。

本件清算事務は控訴人被控訴人ら清算人の過半数によつて決すべきこと前記のとおりであり、各自の出資の割合は平等であるところ、清算人の過半数である被控訴人らは現物をもつて本件土地のうちその五分の三にあたる別紙図面(ハ)(ニ)(ホ)の部分を被控訴人らの共有として分割を求めているのであり、この部分の分割が持分平等に即応しないものと認めるべきとくだんの資料はないからこのような清算方法として清算人の過半数の決議があつたものと同視すべきものであるが、無条件にこれが分割の許されないことは前記のとおりである。しかしその故をもつて被控訴人らの本件土地の分割請求を全面的に排斥すべきものでなく、その現物の分割は、前記のとおり組合債務を組合員に平等に分担せしめ、これを控訴人米田に対し支払うことと引換に認容すれば、被控訴人らの要求にもかない、控訴人米田の利益をも害しないものというべきである。しからば控訴人らは被控訴人らに対し、被控訴人ら各自が控訴人米田に対しそれぞれ金六万六千八百八十七円九十八銭(前記債務額の五分の一)を支払うと引換に、本件土地のうち別紙図面(ハ)(ニ)(ホ)の部分を被控訴人らの共有として分割する登記手続をなすべき義務あるものというべく、これを求める被控訴人らの請求は右の限度で正当として認容すべきである(控訴人川村と控訴人米田との関係についてはその両人の間の決済にまかせれば足りる)。控訴人らは本件は民法第二五八条の共有分割の方法によつてすべきであると主張するが、本件の分割は解散組合の清算の一方法としてなされるものであること前説明からおのずから明らかであるから、控訴人らの右主張は理由がない。

よつてこれと異なる原判決を右の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十二条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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